交通事故の加害者が、通勤中や帰宅中の運転であった場合、加害者本人だけでなく、その加害者を雇用していた会社等に対しても、損害賠償請求ができないか問題になります。
民法715条の使用者責任を問えるかどうかという問題で、「事業の執行について」事故を起こしたかどうか、の判断になります。
福岡地裁飯塚支部平成10年8月5日判決は、マイカー通勤中の事故について、
「通勤は、業務そのものではないが、業務に従事するための前提となる準備行為であるから、業務に密接に関連するものということかできる。労働者が通勤時に災害に遭った場合に労務災害とされることがあるのもそのような観点によるものである。
したがって、使用者としては、従業員の通勤状況(通勤の経路や手段等)を把握しておくべきことはもちろん、進んで、従業員の通勤について一定の指導・監督を加えることが必要とされるものというべきである。確かに、通勤については、本来の業務に従事している場合とは 異なり、使用者が従業員に対し直接的な支配を及ぼすことが時間的にも場所的にも困難であることは否定できない。しかしながら、通勤手段がせいぜい公共交通 機関を利用することによるものであった時代から急速に様変わりして、自家用車による通勤が急増してきている近時にあっては、交通戦争と称される程までに交 通事故が多発している社会状況にあることと相俟って、労働者が通勤時に交通事故に巻き込まれ、或いは自ら交通事故を惹起する危険性が高まっているものとい わなければならないから、使用者としては、このようなマイカー通勤者に対して、普段から安全運転に努めるよう指導・教育するとともに、万一交通事故を起こ したときに備えて十分な保険契約を締結しているか否かを点検指導するなど、特別な留意をすることが必要である。そして、マイカー通勤者に対して右の程度の 指導監督をすべきことを使用者に求めても、決して過大な或いは困難な要求をするものとはいえない。
そうであれば、いまや通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当である。したがって、マイカー通勤者が通勤途上に交通事故を惹起し、他人に損害を生ぜしめた場合(不法行為)においても、右は「事業の執行につき」なされたものであるとして、使用者は原則として使用者責任を負うものというベきである。」
「本件事故は被告定良の通勤途上の事故であり、まさに通勤のための自動 車運転行為そのものから派生したものである。しかも、被告会社は、被告定良がマイカー通勤することを前提として同被告に月額五〇〇〇円の通勤手当を支給していたこと(乙ロ三、証人)からしても、被告会社は被告定良のマイカー通勤を積極的に容認していたことが認められるのであるから、被告会社は本件事故の結果につき使用者責任を負うものというべきである。」
として、会社に対する請求を認めました。
通勤事故の使用者責任を追及する際には、会社が加害者の通勤にどのような関与をしていたのかをしっかりと調査する必要があります。