自転車と歩行者の事故事例です。
歩行者の過失相殺が争われた点と、病院よりも圧倒的に多い整骨院治療費が認められるかが争点でした。
原告は、歩行者。
被告が、自転車運転者でした。時刻は午後10時前。
自転車の接触した事故について、民法709条に基づき、損害賠償請求をした事例です。
接触場所は歩道。本件歩道には、自転車歩道通行可(歩行者優先)の道路標識が設置されていました。
被告自転車が歩道上を進行していたところ、被告自転車の進行方向右側の路外から原告が歩道に入り、接触。
本件事故後、原告は、病院のほか、接骨院に通院。
過失相殺と、接骨院の通院が争われました。
被告は、歩行者についても、過失相殺があると主張しました。
被告自転車を運転して、本件歩道上をライトを灯火して走行し、本件事故の現場付近に差し掛かったところ、原告が、本件歩道の脇に設置された自動販売機の陰から本件歩道に出てきたと事故態様を主張。
原告は、被告自転車から死角となる場所を通って、自転車の走行が許された歩道上に出る際には、左右から走行してくる自転車の有無を確認する義務を負っていたのに、これを怠った、被告自転車がライトを灯火していたことから、気づきやすかったはずだとして、原告の過失割合は30%を下らないと主張しました。
これに対し、原告は、自転車が歩道を通行する場合は、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなればならないにもかかわらず、被告は、被告自転車を運転して車道寄りを徐行せず、左右から進行してくる歩行者の有無、安全を十分に確認しないまま漫然と直進進行してきて本件事故を発生させたものであり、原告に過失はないと反論。
裁判所は、歩行者優先の歩道上であること、被告自転車が時速15~20キロでの走行であったとして被告の過失を認定。
他方、原告が本件歩道に進入するに当たり、歩行者の通常速度よりも速く歩行したり、ふらつきながら歩行したりした事実を認めるに足りる証拠はないこと、被告自転車の進行速度(徐行していたものとはいい難い。道路交通法63条の4
2項参照) からすると、原告が被告から見て死角になっている所から本件歩道に進入してきたことを考慮しても、本件事故の発生について、特段の落ち度があったとはいえないとして、過失相殺を否定しました。
損害について、主に争われたのは、接骨院の治療費。
被告は、接骨院での施術は医師の指示によるものではない上、本件事故による原告の傷害は単なる打撲であり、当初全治7日間を要する見込みと診断されていたにもかかわらず、同院への通院が約7か月間に及んでいる上、通院の頻度も2日に1回と高いこと、健康保険では、柔道整復師による打撲の施術は3か月が目安とされていること、同院の施術証明書には定休日の平成28年9月25日に通院した旨の記載があり、原告が主張する実通院日数には実際には通院していない日が含まれる可能性があること、医師から右前腕部の負傷しか認められていないのに、同院では原告に右手関節捻挫が生じたという誤った判断に基づいていることなどから、接骨院の通院治療費を争いました。
まず、通院経過ですが、原告は、平成28年6月24日、本件事故後にA医療センターで受診。
右前腕部中程榛側に3cm大の皮下血腫、5cmほどの擦過傷、右前腕の打撲部より遠位の前腕・手部全体にしびれ感が確認され、右前腕部打撲傷、受傷日から全治7日間を要する見込みであるとの診断を受け、皮下組織に至る創傷用の被覆材での創傷処置、投薬を受けました。
その後、原告は、平成28年6月27日、B病院で受診。
右前腕部挫創、皮下血腫の診断を受け、創傷処置、投薬を受け、同年7月5日以降、平成29年1月30日まで、月1回程度の頻度で同院での受診を継続し、右前腕の痙痛や違和感を訴え、投薬を受けていました。
同院での受診時、同年7月5日には、エコー検査が実施され、同日の診療録に「血腫」と記載。
同年9月15日には、右前腕の負傷部に凹み(筋挫傷)。
同年10月25日には、エコー検査が実施され、同日の診療録に「血腫」と記載。
原告は、平成29年1月30日、B病院で受診し、痛みの軽減が確認され、医師から治癒の診断を受けました。
この間、平成28年6月28日から平成29年1月26日まで、接骨院にも通院し、右前腕部、右手関節の痛み等を訴え、右前腕部打撲傷、右手関節捻挫の負傷名で施術を受けていました。
その接骨院費用として約45万円の請求をしていました。
この接骨院の施術録の記載内容は、原告の症状の経過について、医療センターや病院での受診時に確認された症状と整合する内容であるし、その通院状況や施術費について、原告に対して月ごとに発行した請求書と矛盾がないと認定しています。
一部採用できない通院日があるものの、施術録の記載内容は、基本的に信用することができるとしています。
そして、証拠から、原告が、平成28年6月28日から平成29年1月26日までの間、合計110回、接骨院に通院し、右前腕部打撲、右手関節捻挫の傷病名で、右前腕及び右手関節付近に対し、当初は電療あん法、テーピング、スダレ固定の施術を受け、その後、痛みの緩和状況に応じてPNF及び手技を受けたこと、1回当たりの施術料が初診時は7500円、その後は4000円であったことを認定しています。
原告は、病院での受診時に、医師に対して接骨院に通院していることや施術内容を説明し、これに対し、医師が施術の中止や施術内容の変更を指示した様子はうかがわれないことからすると、病院への通院期間中に接骨院において施術を受けることについて必要性があったと認められるとしています。
一方で、平成28年6月28日から平成29年1月30日まで(合計217日)の期間中、病院への通院は合計10日であるのに対し、接骨院への通院日数は合計100日以上に及ぶが、このような頻回の接骨院への通院は医師の指示に基づくものとは認められず、原告の傷害の内容、程度、症状の経過を踏まえても、上記通院のすべてについて、必要かつ相当であるということはできないとしました。
また、接骨院では、医師による診断が下されていない右手関節捻挫の負傷名で施術が行われ、本件施術証明書には右前腕部打撲と右手関節捻挫という近接した部位の負傷について、異なる負傷名及び部位で施術をした旨が記載されているなどの事情もありました。
これらの点から、毎回の施術費の全額が上記傷害に対する施術に相当な額であると認めることはできないとしました。
結局、事故と相当因果関係のある損害は、支出額の約3分の1である15万円と認めるのが相当としました。
同じような通院状態、整骨院の方が便利なので、頻繁に通院しやすい、という人は結構いるのですが、のちの損害賠償請求訴訟ではこのように苦労することも多いです。
自転車事故の過失相殺、整骨院の通院がある人はチェックしておくと良い判決といえるでしょう。