セミオーダー型の営業車両の損害認定が参考になる裁判例を紹介。
神戸地方裁判所判決令和元年5月16日判決です。
京都市内の片側1車線の府道に駐車中の事業用大型貨物自動車。こちらが原告車両。
そこに、後方から走行してきた被告運転の事業用中型貨物自動車が衝突。
発生日時は、平成29年6月9日午前4時10分頃でした。
原告車両の所有者である原告が、運転者に対し、民法709条に基づき、運転者の使用者である被告会社については民法715条に基づき、連帯して、損害賠償として原告車両の修理費用等の請求を求めた事案です。
本件事故について、被告らは、夜間駐車するにあたり、非常点滅灯及び尾灯をつけていなかった過失があると主張。
一方、原告は、尾灯をつけていたと主張。原告車両の運転者も尾灯及びハザードランプ(非常点滅灯)をつけていた旨陳述していました。
本件事故は日の出前である午前4時10分頃に発生。
本件事故現場は、片側1車線の府道京都守口線(旧京阪国道)の南行車線で本件事故現場付近は直線道路が続いていました。
運転者は、本件事故現場の近くにある工場に荷物を運ぶために原告車両を走行させてきたが、同工場では他のトラックが荷物運びをしていたので、敷地内に入ることができず、作業が終わるのを本件事故現場に駐車して待機していました。
原告車両は、車体の一部を車線上にはみ出して駐車。
運転者は10年ほど前に大型自動車の免許を取得し、それ以降大型トラックの運転者として稼働してきていました。
原告車両には特に整備不良はなかったことなどが認められています。
裁判所は、このような状況においては、尾灯ないし非常点滅灯をつけずに道路上に駐車することは、後続の車両からの発見を遅らせ、追突される危険が非常に大きくなると考えられることから、運転者であれば、当然に尾灯ないし非常点滅灯をつけるのが通常であると考えられるところ、運転者において、これらをつけずに駐車していたことを認めるような特別な事情はうかがえないとしました。
一方、被告は、本件事故現場に差し掛かったときに目前に原告車両を発見したと陳述しているところ、たとえ本件事故が夜明け前の事故であっても、前記認定の本件現場付近の状況に照らせば、目前になるまで原告車両を認識できないとは考えられず、被告運転手の事故状況に関する陳述は信用できないから、尾灯ないし非常点滅灯がついていなかったとする陳述も採用できないとしました。
原告側の過失はなく、この点で過失相殺されることはありませんでした。
原告車両の修理費が認定されています。
本件事故により損傷し、その修理費用が、108万7171円であったことについては、当事者間に争いはないとして、そのまま認定。
本件トレーラは、平成21年11月新車登録の最大積載量を2万7400kgとする、事業用バンセミトレーラー。
本件トレーラは、既製車両ではなく、顧客の要望する仕様を基に制作されるセミオーダー品でした。
また、リース物件であり、車検証上の所有者は、他社となっているものの、実質的所有者は原告。
修理費用等については原告が負担することになっていました。
本件トレーラは、本件事故により、フレーム、両羽根、リヤドア等に損傷を負い、その修理費用は1323万1827円。
本件トレーラの時価額については、当事者で争いがあるものの、修理費用が時価額より高額となるため、本件トレーラがいわゆる経済的全損として、その時価額を本件トレーラの損害とすることについては、当事者間に争いはありませんでした。
原告は、本件トレーラはセミオーダー品であり、中古車市場でも出回っていないものであるから、新車価格である1004万7400円を損害とすべきであると主張。
しかしながら、本件トレーラは、平成21年11月新車登録の中古車であり、たとえ市場での同等車の入手が困難であったとしても、新車購入価格を損害とすることは、不法行為時の損害の填補を原則とする不法行為の原則と照らしても相当ではなく、本件事故当時の中古車としての価値を損害とするべきであるから、原告の主張は採用できないと排斥しました。
一方、被告らは、本件トレーラの中古車市場における時価を算定することが困難であるから、減価償却の手法により時価額を算定すべきであり、そして、本件トレーラの減価償却期間は10年とすべきであると主張。
しかしながら、減価償却はあくまで税制上の考え方で、減価償却期間後の残存価値を0とするものであること、本件トレーラ部分は動力機関を持たない車両であり、実際の耐用年数は10年以上であることなどに照らすと、減価償却の手法は、中古車市場で調達できない場合の時価額算定のひとつの要素とすることは格別、減価償却の手法のみをもって時価額を算定することは相当ではないとしました。
そして、本件トレーラの初年度登録年から本件事故までの期間、走行距離(本件トレーラの走行距離は不明であるが、本件トラクタは、1年4カ月で約11万km走行している)、新車価格(原告は、1004万7400円は値引き価格であって本来の新車価格は1476万9000円であると主張するが、本件トレーラはセミオーダー車で定価がないものであり、現実に原告としては1004万7400円で購入できるのであるから同額を新車価格とすべきである。)、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件トレーラの時価額としては、新車価格の約6割に当たる600万円とするのが相当であるとしました。
時価額の算定として、購入価格でもなく、減価償却の採用でもなく、新車価格の6割と判断したものです。
事業に使っていた車であることから、一定期間、使えなかったことによる損失が出ています。休車損という争点です。
原告は、本件事故後、新トレーラを発注。
平成30年1月5日の時点では、同年9月に完成の予定でしたが、平成31年1月現在も納入されていない状態。
原告が保有する車両は130台、雇用する運転者は130人であり、運転者ごとに使用する車両及び得意先は決まっています。
原告車両が本件事故により使用不能になったため、原告車両が行っていた会社のための運送ができなくなった事態に。
本件事故後、原告車両が行っていた取引先の運送については、他社が行うこととなっていました。
原告車両の本件事故前3か月の売上合計は、624万3000円。
また、同期間の原告車両の変動経費は、合計406万0425円。
被告らは、原告は、遊休車を有していた、売上高の減少がないなどとして、休車損は認められないと主張。
しかしながら、前記認定の原告における車両と運転者の配置状況に照らすと、原告には、他の車両の代替となる遊休車は存在しなかったと認めるのが相当としました。
また、原告において、原告車両が使用できなくなったことで、会社全体の売り上げが減少したか否かは証拠上不明であるが、原告車両は取引先の専属であり、原告車両が使用できず代替車による運送もできなかったことから、原告車両の運送により得ていた売り上げがなくなったことは明らかであるから、原告に原告車両が使用できなかった期間について、休車損を認めるのが相当としました。
原告車両の本件事故前3か月の売上及び変動経費から、原告車両の1日の利益は、2万3723円と計算されています。
(6、243、000-4、060、425)÷92
同金額を休車損算定の基礎日額とするのが相当とされました。
次に、休車期間。
新トレーラは、セミオーダー品であって、顧客からの発注を受けてから制作を開始するため、その納期は、一般的な市販車に比べて長期となることを指摘。
そうすると、本件においては、一般的な新車購入期間を休車期間とすることはできず、新トレーラの制作にかかる期間を、休車期間とするのが相当となるとしました。
原告は、新トレーラの制作には1年程度はかかり、リースによる購入が前提となるので、リース承認期間を加えれば、本件事故日から、納車予定日の前である平成30年8月31日までは休車期間と認めるべきであると主張していました。
しかしながら、原告が、新トレーラの制作を正式に発注した時期、その前提となるリース契約が承認された日などを認めるに足りる客観的な証拠はなく、当初の納期から4カ月経過した平成31年1月に至ってもトレーラが納品されていないことをも総合考慮すると、原告の制作期間に関する主張は俄かに採用し難いとしました。
本件トレーラの制作にかかる期間としては、トレーラがセミオーダー車であり、積載量が27.4トンと特殊な車両であることを考慮しても、180日(6カ月程度)であると認めるのが相当としています。
本件事故と相当因果関係のある休車損としては、427万0140円を認定。
計算式は、 23、723円×180日とされています。
事業用自動車の損害、特にセミオーダー型の車両損害の裁判例となりますので、同種事件では参考にしてみてください。
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